2026年11月3日
この記事は2回に分けた連載の後編です。まず前編からお読みください← 前編:「24時間動く」は何が動いているのか。5社のサービスの違いとHermes Agentの常駐運用
前編では、「24時間動くAI」はLLMが休みなく考え続けることではなく、時刻や通知を待つ仕組みが条件に合ったときにAIを呼び出す設計だ、と整理しました。OpenAI、Anthropic、Meta、xAI、Googleのサービスを並べ、私がHermes Agentを常駐させて重要メールの通知やサーバー不調のアラートに使っていることも書きました。
後編では、その中身にもう一歩入ります。人が何も言っていないのに、AIが「自分から」動いて見えるのはなぜか。その仕組みは本当に新しいのか。そして、すでにオープンソースで同じことができるのに、大手がいま公式版を出すのはなぜか。最後に、立場ごとの選び方をまとめます。仕様は2026年11月時点の各社公開情報で確認しています。
AIはなぜ「自分から」動けるのか
ここまで読んで、こんな疑問を持った方もいると思います。ChatGPTやClaudeの頭脳である大規模言語モデル(LLM)は、人が文字を入力したら続きを返すプログラムのはずです。それが、誰も話しかけていないのに「これを調べておきました」と動く。AIに意志でも芽生えたのでしょうか。
エンジニアとしての答えは、はっきりしています。意志が芽生えたわけではありません。LLMは今も、渡された文章に対して続きを返す計算機です。誰も呼ばなければ、何もしません。
自分から動いて見える理由は、LLMの手前にある仕組みにあります。目覚まし時計と郵便受けとメモ帳を持った「執事」のようなプログラム(オーケストレーターと呼ばれます)が常駐していて、条件がそろうと、人の代わりに指示文を組み立ててAIを起こします。起こし方は、おおむね次の4つに分けられます。
- 郵便受け(Webhook):Slackのメッセージ、メールの受信、監視ツールのアラートなど、外の出来事を受け取って起こす。
- 目覚まし時計(Cron):「毎朝8時」「2時間ごと」など、決めた時刻に起こす。
- 手の空いた時間の見回り:人からの指示がない間に、先回りの調査をさせる。OpenAI dotsの「Proactive research」がこの形で、前編で書いたとおり、読める情報を調べて私的なノートに残すだけで、送信や変更はしません。
- 未来の自分への予約:作業の途中で、AI自身が「24時間後にもう一度確認する」という予約を入れておく。
4つめが少しわかりにくいので、Hermes Agentで説明します。HermesのCron機能の説明によると、会話の中で「毎朝9時にニュースをまとめて送って」と頼むと、エージェントが自分でジョブを登録します。「30分後」「1日後」のような1回だけの予約も、繰り返しの予約も作れます。ただし、Cronで起動したジョブがさらに別のジョブを作ることは、既定では許可されていません。設定で明示的に許可したときだけです。AIが自分を起こす予約を際限なく増やさないよう、入口で止めているわけです。
スマートフォンなど画面幅が狭い場合は、図を左右にスクロールできます。
24時間動かしても破綻させないための工夫
起こす仕組みを作るだけなら、それほど難しくありません。難しいのは、24時間動かしたときに、費用と権限が暴れないようにすることです。ここからは、各社が内部構成として公開している内容ではなく、常駐型を自分で組むときに私が設計上の要点だと考えていることです。
- 起こす前に仕分ける:通知が来るたびに一番賢いモデルを起こすと、費用がかさみます。ルールや安いモデルで「起こす必要があるか」を先に判定し、本当に必要なものだけを上位のモデルに渡します。Claude Duetの発表でも、接続したアカウントの定期チェックはプランの利用枠を使うと明記されています。待っているだけでも、見回りの回数は費用に効きます。
- 待つ間は記憶を保存して手を離す:人の承認や返事を待つ間、処理を抱えたまま待たせる必要はありません。途中の状態を保存しておき、返事が来たら続きから再開します。dotsも、作業の一時停止と再開をエージェント自身が判断し、端末の電源を切ってもクラウド側で作業を続けられると説明しています。
- 自分から起きたときは権限を絞る:人に頼まれたのではなく、見回りで自発的に起きたときは、読むだけにしておく。dotsのProactive researchが送信や変更をしないのは、この考え方に沿っています。Claude Duetも、メッセージの送信、支払い、署名、削除の前には内容を示して承認を待ち、証券の売買や口座間の資金移動は承認があっても行わないとしています。
仕組みだけ見れば、新しくはない
ここからが、この連載でいちばん書きたかったところです。
目覚まし時計と郵便受けでAIを起こし、記憶を保存しながらチャットアプリに常駐させる。この仕組みを読んで、普段からサーバーを触っているエンジニアの多くは「それはOpenClawやHermes Agentがすでにやっていたことでは」と感じたはずです。私もそう思いました。技術の仕組みだけを見れば、dotsやClaude Duetに、それまで誰もできなかった新しい魔法があるわけではありません。
先に広まっていた、オープンソースの常駐AI
大手5社の発表より前から、自分のPCや安いレンタルサーバーに入れて24時間動かすオープンソースのAIエージェントは、開発者の間で広く使われていました。
- OpenClaw:手元のマシンで動くAIアシスタントで、記憶や認証情報も手元に置き、SlackやTelegram、WhatsAppなど多くのチャットアプリから話しかけられます。GitHubのスター数は約39万(2026年11月時点)です。
- Hermes Agent:Nous Researchが開発するエージェントです。スキル機能の説明では、手間のかかる手順をつかんだときや、エラーを乗り越えたとき、利用者に直されたときに、その手順をスキル(手順書)として自分で書き残すと説明されています。使うほど手順書が増えていく仕組みです。
- NanoClaw:OpenClawの軽量な代替として作られたもので、エージェントをコンテナの中で動かし、ファイルや秘密情報を隔離することを重視しています。
私自身、OpenClawを中古PC3台で動かす構成まで組んで使い込み、その後Hermesへ移行しました。前編に書いたHermesの常駐運用は、その延長にあります。つまり「24時間常駐し、先回りして動くAI」は、大手が発明したものではありません。オープンソースの開発者たちが先に形にし、使い方を広げてきたものです。
それでも大手が公式版を出す4つの理由
では、なぜOpenAIやAnthropicは、同じような仕組みをいま公式に出したのでしょうか。周辺ツールが広めた機能をプラットフォーム側が取り込む動きは、IT業界では「Sherlocking(シャーロッキング)」と呼ばれることがあります。AppleがMac向け検索ソフトSherlockに、他社製ソフトとよく似た機能を入れたことに由来する俗語です。今回の動きにも、その面があると私は見ています。理由は4つに分けて考えられます。
理由1:定額プランの使い道を、自社の製品に寄せるため
OpenClawのような常駐エージェントをAPIの従量課金で24時間動かすと、費用はすぐに膨らみます。そこで、月額のサブスクリプションのログイン情報を外部ツールにつなぎ、定額の枠でエージェントを動かす使い方が広まりました。
Anthropicは、これを認めない立場をはっきりさせています。Claude Codeの法務・コンプライアンスのページでは、サブスクリプションのOAuth認証はClaude Codeなど純正アプリでの通常利用向けで、第三者がFree、Pro、Max、Ultraの認証情報を経由させることは認めないと書かれています。2026年4月には、OpenClawなどの外部ツールからの利用が定額の枠の対象外になりました。私も当時、OpenClawが従量課金に切り替わった経緯を記事にしています。
その一方で、Claude Duetは研究プレビューの間、Pro、Max、Ultraのプランに含まれ、Claudeのほかの機能と同じ利用枠で動きます。dotsも月100ドルのPro以上が対象で、dotsとの会話はChatGPTの利用上限に数えないと説明されています。外への抜け道を閉じ、定額で使える常駐AIを自社で用意する。順番としては、そう読めます。
ただし、各社の態度は同じではありません。OpenClawのドキュメントには、OpenAIは外部ツールでのサブスクリプションOAuth利用を明示的に認めていると書かれています。Hermesでも、公式のclaudeコマンドを経由してPro/Maxの枠を使うプラグインが出ており、私も導入した手順と消費の目安をまとめました。定額の枠を外部ツールで使えるかどうかは、会社ごと、時期ごとに確かめる必要があります。
理由2:アプリをつなぐ手間を、まとめて引き受けたから
自前のエージェントにGmailやSlackをつなぐには、多くの場合、開発者向けの管理画面でアプリを登録し、認証の鍵を発行して設定ファイルに書く作業が要ります。エンジニアには慣れた作業でも、そうでない人には高い壁です。
Claude Duetは、Claude Marketplaceの6,000以上のコネクタとプラグインを使えると案内しています。OpenAIもdotsの発表で4,000以上のアプリとの連携を打ち出したと報じられています。大手が引き受けたのは、相手先の各社と話をつけ、ボタンを押すだけで安全につながる状態を用意するという、地道で手間のかかる仕事です。
理由3:会社で使える安全装置を、最初から付けているから
常駐エージェントは、メールやファイルを読み、外へ何かを送る力を持ちます。悪意ある文面を読ませてAIに意図しない操作をさせる「プロンプトインジェクション」の危険もあり、会社のPCにOpenClawを入れるのは、普通の情報システム部門なら止めるでしょう。私も以前、OpenClawをむやみに入れない方がよい理由を書きました。NanoClawのように隔離を売りにするOSSが出てきたのも、この不安の裏返しです。
公式版は、この部分を製品に組み込んでいます。Claude Duetは送信・支払い・署名・削除の前に承認を求め、支払いはStripeのLinkを通じて仮想カードで行い、本当のカード番号を渡しません。Meta Museでは、エージェントが行った操作の履歴と予定を確認できます。dotsのEnterprise向けは既定でオフで、管理者が有効にしない限り使えません。稟議を通すときに説明できる材料が、最初からそろっているわけです。
理由4:モデルと製品を一緒に作れるから
ここは公式に説明されていることではなく、私の見立てです。外部ツールは、いわばAIの頭脳を外から操縦する仕組みです。一方、自社でモデルを持つ会社は、「どこまで自分で進め、どこで人に確認するか」という判断を、モデルを育てる段階から製品の動きに合わせて作り込めます。承認を求めるタイミングや、止まって待つときの振る舞いが自然になるのは、この一体設計の強みだと考えています。
これから、どう付き合うか
最後に、立場ごとの選び方をまとめます。提供範囲や料金は2026年11月時点の公開情報によるもので、地域やプランで変わります。
まず手軽に、常駐AIを試してみたい人
- 費用をかけずに試すなら、2026年10月に日本で提供が始まったMeta Museが入口になります。基本機能の多くは無料で、上位の機能はサブスクリプションです。
- 仕事の中心がGoogle Workspaceなら、Geminiアプリのエージェント機能(Gemini Spark)が候補です。日本でもGoogle AI Pro/Ultraの契約者向けに提供が広がっていると報じられています。
- 月100ドル以上のChatGPT Proを払ってでも、調べものや定例作業を任せる相手がほしいなら、OpenAI dotsです。
すでにClaude CodeやCodexを使っている開発者
画面の前に座ってコードを書く仕事は、これまでどおりClaude CodeやCodexに任せます。そのうえで、夜間のログの見張り、エラーの切り分けの下調べ、定例レポートの作成のように、時間をまたいで続く仕事を常駐型に回す。前編で書いた「起動の仕組みと権限をどこまで製品に任せるか」で役割を分ける二刀流が、無理のない形だと思います。
費用と自由度を自分で握りたいエンジニア
特定の1社に縛られたくない、サブスクの費用を抑えたい、自分の環境やツールに直接つなぎたい。そういう人には、OpenClawやHermes Agent(隔離を重視するならNanoClaw)を自前のサーバーで動かす道が、いちばん自由度があります。私はHermesで、対話とチャットの返信はClaudeのサブスク、重い定期ジョブは別のプロバイダ、と使い分けています。その代わり、権限の設計、稼働の監視、更新や障害の対応は自分の仕事になります。
おわりに:AIを使う人から、AIに仕事を任せる人へ
前編と後編を通して見てきたとおり、「寝ている間に働くAI」は、突然生まれた魔法ではありません。オープンソースで先に形になった仕組みを、大手が、誰でもボタン1つで安全に使える製品にまとめた。私は今回の動きを、発明というより普及の転換点だと考えています。
これからのAIの使い方は、上手に質問することから、どんな仕事をどの条件で任せ、どこで自分が承認するかを決めることへ移っていきます。まずは無料のツールや、小さな定例作業1つからで構いません。パソコンを閉じている間にAIが仕事を1つ片付けておいてくれる感覚を、一度味わってみてください。
Hermes Agentで常駐AIを組む
記憶・スキル・定期実行・MCP連携など、導入と運用の情報をまとめています。
※2026年11月時点の各社公開情報を確認しています。提供状況や機能、規約は変更されることがあります。
確認した情報
- OpenAI: Meet dots、Tasks and memory — 対象プラン、利用上限、一時停止と再開、Proactive research。
- Anthropic: Introducing Claude Duet — 対象プランと利用枠、6,000以上のコネクタ、承認、Linkによる仮想カード決済。
- Claude Code: Legal and compliance — サブスクリプションのOAuth認証の扱い。
- Meta: パーソナルAIエージェントMuseを日本で提供開始 — 日本での提供、料金、操作履歴。
- Hermes Agent: Scheduled Tasks (Cron)、Skills — 会話からの予約、ジョブからのジョブ作成の制限、スキルの自己作成。
- OpenClaw(GitHub)、OpenClaw Docs: OpenAI、NanoClaw(GitHub) — 概要、スター数、外部ツールでのOpenAIサブスク利用。
- ITmedia Mobile — Gemini Sparkの日本での提供拡大(報道)。
- Wikipedia: Sherlock (software) — 「Sherlocking」の由来。
各社の案内は2026年11月3日に確認しました。記事は主に公式発表・ドキュメントに基づき、各サービスをアカウント単位で実機確認したものではありません。dotsの連携アプリ数とGemini Sparkの日本での提供範囲は報道に基づきます。
