MITRE ATT&CK

セキュリティ基礎 | IT用語集

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概要

MITRE ATT&CK(Adversarial Tactics, Techniques, and Common Knowledge)は、MITRE Corporation が開発・運営している、実際の攻撃事例に基づいて攻撃者の戦術・技術・手順(TTPs)を体系化したナレッジベースです。世界中のサイバーセキュリティ専門家によって共有・活用される、攻撃分析のためのグローバル標準フレームワークです。

MITRE ATT&CKは、攻撃者がどのような手法を使ってシステムに侵入し、目的を達成するかを詳細に分類・整理しており、防御側がより効果的なセキュリティ戦略を立案するための重要な情報源として広く活用されています。

詳しい解説

MITRE ATT&CKの構造

1. マトリックス構造

MITRE ATT&CKは、以下の3つの主要マトリックスで構成されています:

  • Enterprise Matrix:企業ネットワークを対象とした攻撃
  • Mobile Matrix:モバイルデバイスを対象とした攻撃
  • ICS Matrix:産業制御システムを対象とした攻撃

2. 戦術(Tactics)

攻撃者の高レベルな目標を表す14の戦術カテゴリ:

  • 初期アクセス(Initial Access):ネットワークへの侵入
  • 実行(Execution):悪意のあるコードの実行
  • 永続化(Persistence):足場の維持
  • 権限昇格(Privilege Escalation):より高い権限の取得
  • 防御回避(Defense Evasion):検出の回避
  • 認証情報アクセス(Credential Access):認証情報の窃取
  • 発見(Discovery):環境の偵察
  • 横移動(Lateral Movement):ネットワーク内の拡散
  • 収集(Collection):目標データの収集
  • 指令制御(Command and Control):C&Cサーバーとの通信
  • 流出(Exfiltration):データの外部送信
  • 影響(Impact):システムやデータへの影響

3. 技術(Techniques)

各戦術の下に分類される具体的な攻撃手法。200以上の技術が定義されており、それぞれに:

  • 詳細な説明:技術の動作原理と実装方法
  • 実例:実際の攻撃グループや事例での使用例
  • 対策:検出方法と防御手段
  • データソース:検出に必要な情報源

4. 手順(Procedures)

特定の攻撃グループがどのように技術を実装するかの具体的な手順。

主要な活用方法

1. 脅威ハンティング

  • 仮説ベースの検索:MITRE ATT&CKの技術に基づく脅威の探索
  • 行動分析:攻撃パターンの特定と分析
  • IOC開発:検出指標の体系的な開発

2. セキュリティ評価

  • レッドチーム演習:攻撃シミュレーションの計画立案
  • ペネトレーションテスト:現実的な攻撃シナリオの構築
  • 脆弱性評価:組織の防御能力のギャップ分析

3. 防御戦略の策定

  • 検出ルールの作成:SIEM/SIEMルールの体系的な開発
  • 防御優先順位:リスクベースの防御施策の優先順位付け
  • 技術選定:セキュリティツールの評価基準

4. 脅威インテリジェンス

  • 攻撃グループの分析:APTグループの手法の体系的理解
  • キャンペーン分析:攻撃キャンペーンの技術的特徴の把握
  • 予測分析:将来の攻撃手法の予測

実装方法

1. MITRE ATT&CK Navigator

  • 視覚化ツール:マトリックスの視覚的な表現
  • カスタマイズ:組織固有の脅威環境の反映
  • 比較分析:異なるシナリオや時期の比較

2. CALDERA

  • 自動化プラットフォーム:MITRE ATT&CKベースの攻撃シミュレーション
  • アドバーサリーエミュレーション:実際の攻撃グループの模倣
  • 継続的評価:定期的な防御能力の検証

3. 組織への統合

  • 既存ツールとの統合:SIEM、EDR、SOARとの連携
  • プロセスの標準化:インシデント対応手順への組み込み
  • チーム教育:セキュリティチームへの知識普及

ベストプラクティス

1. 段階的導入

  1. 基礎学習:フレームワークの理解と習得
  2. パイロット実装:特定の戦術・技術での試行
  3. 段階的拡張:成功事例を基にした範囲拡大
  4. 継続的改善:最新の脅威情報に基づく更新

2. 組織固有の適用

  • 脅威モデリング:組織が直面する具体的な脅威の特定
  • 優先順位付け:リスクと影響度に基づく重要度の設定
  • カスタマイゼーション:業界や環境に応じた調整

3. 継続的な活用

  • 定期的な見直し:新しい技術や脅威への対応
  • コミュニティ参加:MITRE ATT&CKコミュニティとの連携
  • 知識共有:組織内での知見の共有と蓄積

4. 測定と改善

  • 効果測定:防御能力の向上度合いの定量化
  • ギャップ分析:未対応領域の特定と対策
  • ROI評価:投資対効果の定期的な評価

実装事例とメリット

成功事例

グローバルテクノロジー企業:MITRE ATT&CKをベースとした脅威ハンティングプログラムを実装。14のマトリクス全体をカバーする監視体制を構築し、APT攻撃の検知率を60%向上させました。Red Teamテストでは侵入後の横展開を90%の確率で検知できるようになりました。

金融機関での防御強化:レッドチーム演習にMITRE ATT&CKを活用し、実際の攻撃者の手法を模倣した評価を実施。防御ギャップを特定し、段階的な改善により、セキュリティ成熟度を大幅に向上させました。

導入効果とメリット

  • 脅威の標準化:共通言語による効率的なセキュリティコミュニケーション
  • 防御力の可視化:組織のセキュリティギャップの明確な特定
  • 投資対効果の向上:優先度に基づくセキュリティ投資の最適化
  • チーム連携の強化:レッド・ブルー・パープルチーム間の効果的な協力
  • 継続的改善:最新の脅威情報に基づく防御戦略の更新

課題と限界

主な課題

  • 複雑性の増大:300以上の技術を含む包括的なフレームワークの理解困難
  • リソース要求:全面的な実装には専門スキルと時間が必要
  • 誤解釈のリスク:不適切な適用による効果的でない対策
  • 動的な更新:頻繁な更新に追従する継続的な学習コスト
  • 組織固有の調整:一般的なフレームワークの組織特化の困難さ

効果的な対策

  • 段階的導入:優先度の高い戦術から順次実装
  • 専門家との連携:外部コンサルタントや専門ベンダーの活用
  • 自動化ツールの利用:MITRE ATT&CK対応ツールによる効率化
  • 継続的教育:チーム全体のスキル向上プログラム
  • コミュニティ参加:ユーザーコミュニティでの知見共有

MITRE ATT&CK対応ツール比較

ツール/プラットフォーム ATT&CK統合機能 特徴 適用領域
MITRE ATT&CK Navigator ネイティブサポート オープンソース、可視化 分析・可視化
Splunk SOAR フレームワーク統合 プレイブック自動化 インシデント対応
Elastic Security 検知ルール統合 オープンソース対応 脅威検知
CrowdStrike Falcon 技術マッピング AI分析統合 エンドポイント保護
Microsoft Sentinel ワークブック統合 クラウドネイティブ SIEM・SOAR

業界別適用アプローチ

金融サービス

  • 重点技術:T1566(フィッシング)、T1078(有効なアカウント)、T1048(データ流出)
  • 規制対応:PCI DSS、SOX法要件との整合性確保
  • 特別な考慮事項:24/7運用要件、高可用性システムでの実装

ヘルスケア

  • 重点技術:T1005(ローカルデータ収集)、T1041(C2経由流出)、T1486(ランサムウェア)
  • 規制対応:HIPAA準拠、患者データ保護
  • 特別な考慮事項:医療機器のセキュリティ、生命安全要件

製造業

  • 重点技術:T1070(防御回避)、T1021(リモートサービス)、T1565(データ改ざん)
  • OT環境:産業制御システムに特化したATT&CK for ICS活用
  • 特別な考慮事項:生産停止リスク、サプライチェーンセキュリティ

将来の展望と進化

技術的進化

  • AI・機械学習統合:攻撃パターンの自動分析と予測機能強化
  • クラウドネイティブ拡張:コンテナ・サーバーレス環境での詳細化
  • IoTデバイス対応:IoT特化の攻撃技術とカウンター手法の体系化
  • 量子コンピューティング対応:次世代暗号化技術への攻撃手法の追加

標準化と統合の動向

  • 国際標準化:ISO/IEC 27000シリーズとの統合強化
  • 業界特化版:セクター固有のATT&CKサブフレームワーク開発
  • 他フレームワーク統合:NIST CSF、OWASP等との更なる連携

2025年以降の予測

MITRE ATT&CKは以下のような発展が予測されます:

  • Web3・メタバース環境での新攻撃手法の体系化
  • AI対AI攻撃シナリオの詳細なマッピング
  • ゼロトラスト環境に特化した技術カテゴリの追加
  • 自動化された防御システムとの動的連携機能

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