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この記事は続編です
本記事は「小規模企業共済と経営セーフティ共済を徹底解説」の続編です。小規模企業共済の基本的な仕組みやメリット・デメリットをまだご覧になっていない方は、まず前編をご確認いただくことをお勧めします。
前回の記事では、フリーランス・個人事業主にとって必須の節税制度について基本を解説しました。
今回は、小規模企業共済をすでに活用している方向けに、節税効果をさらに最大化する上級テクニックを2つご紹介します。
- 貸付制度を活用した「2階建て年金」戦略 - 共済の積立金を借りて国民年金基金に掛け、ダブルで所得控除
- 前納制度を活用した「年末一括控除」戦略 - 12月に翌年分を前納して168万円の所得控除を実現
どちらも制度として正式に認められた方法ですが、意外と知られていません。公式サイトの情報と制度の仕組みを詳しく解説していきます。
1. 貸付制度×国民年金基金で「2階建て年金」を構築する
小規模企業共済の「貸付制度」とは?
小規模企業共済には、掛金の納付状況に応じて事業資金等を借り入れできる「貸付制度」が用意されています。これは共済金を受け取る前でも、積み立てた掛金の範囲内で資金を調達できる非常に便利な制度です。
中小機構の公式サイトでは、貸付制度について以下のように説明されています。
小規模企業共済制度に加入している方が、納付した掛金合計額の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で、事業資金を借り入れできる制度です。
— 中小機構 小規模企業共済 貸付制度
貸付制度の種類と金利
小規模企業共済では、目的に応じて複数の貸付制度が用意されています。
| 貸付の種類 | 金利(年利) | 借入限度額 |
|---|---|---|
| 一般貸付け | 1.5% | 掛金の7〜9割(10万円〜2,000万円) |
| 緊急経営安定貸付け | 0.9% | 掛金の7〜9割(50万円〜1,000万円) |
| 傷病災害時貸付け | 0.9% | 掛金の7〜9割(50万円〜1,000万円) |
| 福祉対応貸付け | 0.9% | 掛金の7〜9割(50万円〜1,000万円) |
| 創業転業時・新規事業展開等貸付け | 0.9% | 掛金の7〜9割(50万円〜1,000万円) |
| 廃業準備貸付け | 0.9% | 掛金の7〜9割(50万円〜1,000万円) |
| 事業承継貸付け | 0.9% | 掛金の7〜9割(50万円〜1,000万円) |
貸付限度額は、掛金納付月数に応じて、掛金残高の7割〜9割が借入れ可能です。
— 中小機構 小規模企業共済 貸付制度の詳細
国民年金基金とは?「2階建て年金」の仕組み
日本の年金制度は、以下のような構造になっています。
- 1階部分:国民年金(基礎年金)- 全国民が加入
- 2階部分:厚生年金(会社員)or 国民年金基金(自営業者)
会社員は厚生年金に自動加入しますが、フリーランス・個人事業主は国民年金のみ。つまり、何も対策しなければ1階建ての年金しかもらえません。
この「2階部分」を自分で作れるのが国民年金基金です。
国民年金基金は、自営業者やフリーランスなど国民年金の第1号被保険者の方が、国民年金に上乗せして加入できる公的な年金制度です。掛金は全額が社会保険料控除の対象となり、所得税・住民税の軽減につながります。
— 国民年金基金連合会 公式サイト
国民年金基金の掛金上限と控除
国民年金基金の掛金上限は、月額68,000円(年間816,000円)です。ただし、iDeCo(個人型確定拠出年金)と合算して68,000円が上限となります。
国民年金基金の掛金は、全額が社会保険料控除として所得から差し引くことができます。
— 国税庁 No.1130 社会保険料控除
「貸付制度×国民年金基金」戦略の具体的な流れ
では、具体的にどのようにこの戦略を実行するか見ていきましょう。
ステップ1:小規模企業共済で積立てる
まず、小規模企業共済に加入し、月額7万円(年間84万円)の満額で掛金を積み立てます。この掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除として所得控除されます。
小規模企業共済等掛金控除は、納税者が小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金等を支払った場合に受けられる所得控除です。
— 国税庁 No.1135 小規模企業共済等掛金控除
ステップ2:積立金から貸付を受ける
ある程度積立てが進んだら、貸付制度を利用して資金を借り入れます。例えば、3年間満額で積み立てると252万円。その7〜9割、つまり約176万〜226万円が借入可能となります。
ステップ3:借入金で国民年金基金に加入する
借り入れた資金を元手に、国民年金基金に加入します。国民年金基金の掛金も全額が社会保険料控除の対象です。
節税効果のシミュレーション
年収800万円のフリーランスで試算してみましょう。
小規模企業共済のみの場合
- 小規模企業共済掛金:84万円/年(所得控除)
- 所得税率30%+住民税10%と仮定
- 節税効果:84万円 × 40% = 約33.6万円/年
小規模企業共済+国民年金基金の場合
- 小規模企業共済掛金:84万円/年(所得控除)
- 国民年金基金掛金:81.6万円/年(所得控除)※
iDeCo未加入の場合 - 合計所得控除:165.6万円/年
- 節税効果:165.6万円 × 40% = 約66.2万円/年
差額:約32.6万円の追加節税効果!
この戦略の注意点
- 貸付金利は発生する:一般貸付けで年利1.5%の利息がかかります。ただし、節税効果がこれを大きく上回るケースが多いです。
- 返済計画を立てる:借入金は返済が必要です。毎月の返済額と国民年金基金の掛金の両方を支払える資金計画を立てましょう。
- 国民年金基金は終身:国民年金基金は原則として途中解約できません。60歳以降に年金として受け取ることになります。
- iDeCoとの併用制限:国民年金基金と
iDeCoは合算で月額68,000円が上限です。すでにiDeCoに加入している場合は、その分を差し引いた金額が上限となります。
2. 前納制度で「年末一括168万円控除」を実現する
小規模企業共済の「前納制度」とは?
小規模企業共済には、将来の掛金を前払いできる「前納制度」があります。この制度を活用すると、特定の年に所得控除を集中させることができます。
小規模企業共済の掛金は、前納することができます。前納された掛金は、前納した月から向こう1年以内の掛金として充当されます。
— 中小機構 小規模企業共済 掛金について
前納のルールと控除のタイミング
前納した掛金は、支払った年の所得控除として認められます。これは国税庁も明確に認めています。
小規模企業共済等掛金を前納した場合には、前納した掛金の全額がその年の所得控除の対象となります。
— 国税庁 No.1135 小規模企業共済等掛金控除
具体的な活用シナリオ:12月に翌年分を前納
最も効果的な活用方法は、12月に翌年1〜12月分の掛金をまとめて前納することです。
例:2026年12月に前納する場合
- 2026年1〜12月分の通常掛金:月7万円 × 12ヶ月 = 84万円
- 2026年12月に2027年1〜12月分を前納:月7万円 × 12ヶ月 = 84万円
- 2026年の合計所得控除:168万円
この168万円が、2026年分の確定申告で全額所得控除として認められます。
前納の手続き方法
前納の手続きは、中小機構に「掛金前納申出書」を提出することで行えます。
前納を希望される場合は、「掛金前納申出書」をご提出ください。前納された掛金については、掛金の前納減額金(0.09%/月)が適用されます。
— 中小機構 小規模企業共済 各種届出書類
なお、前納には前納減額金(実質的な割引)も適用されます。年利約1.08%相当の割引が受けられるため、節税効果に加えてお得です。
節税効果のシミュレーション
年収1,000万円のフリーランスで、大きく利益が出た年に前納を活用した場合を試算します。
通常の積立て(84万円/年)の場合
- 所得控除:84万円
- 所得税率33%+住民税10%と仮定
- 節税効果:84万円 × 43% = 約36.1万円
前納活用(168万円/年)の場合
- 所得控除:168万円
- 所得税率33%+住民税10%と仮定
- 節税効果:168万円 × 43% = 約72.2万円
差額:約36万円の追加節税効果!(ただし翌年は控除なし)
この戦略が効果的なケース
前納制度は「利益が大きく出た年にのみ」活用するのがポイントです。
効果的なケース
- 大型案件が決まり、例年より大幅に利益が増えた年
- 株や仮想通貨など、臨時の大きな利益が出た年
- 退職所得や一時所得など、特別な収入があった年
- 法人化直前で個人事業の利益を最大限圧縮したい年
効果的でないケース
- 毎年安定した収入がある場合(毎年84万円ずつ控除した方が税率の累進を考慮すると有利な場合がある)
- 翌年も高い利益が見込める場合(翌年の控除がなくなるため)
前納制度の注意点
- 翌年は控除なし:2026年12月に2027年分を前納すると、2027年の所得控除に使える小規模企業共済の掛金は0円になります。
- 資金の一時的な負担:168万円を一度に支払う必要があるため、キャッシュフローに余裕がある必要があります。
- 解約時の扱い:前納した掛金も含めて解約した場合、加入期間が短いと元本割れのリスクがあります。
- 毎年使う技ではない:前納は単年の節税対策です。翌年に再度前納しても、実質的には通常の掛金と変わりません。
2つの戦略を組み合わせた究極の節税プラン
最後に、2つの戦略を組み合わせた場合の節税効果を見てみましょう。
シミュレーション:年収1,200万円の大型案件獲得年
条件
- 通常年収:600万円
- 大型案件により当年収入:1,200万円
- 所得税率33%+住民税10%
節税対策の組み合わせ
| 制度 | 掛金・控除額 | 控除の種類 |
|---|---|---|
| 小規模企業共済(当年分) | 84万円 | 小規模企業共済等掛金控除 |
| 小規模企業共済(前納・翌年分) | 84万円 | 小規模企業共済等掛金控除 |
| 国民年金基金 | 81.6万円 | 社会保険料控除 |
| 合計所得控除 | 249.6万円 | - |
節税効果:249.6万円 × 43% = 約107万円!
もちろん、経営セーフティ共済(年間最大240万円を必要経費算入)も併用すれば、さらに大きな節税が可能です。
まとめ:制度を正しく理解して最大限活用しよう
小規模企業共済は、単に「月7万円を積み立てて84万円の所得控除」という使い方だけではありません。
- 貸付制度を活用して国民年金基金に加入し、所得控除を二重取り
- 前納制度を活用して利益が大きい年に168万円の控除を実現
これらの上級テクニックを適切に活用することで、合法的に節税効果を最大化できます。
ただし、どちらの戦略も「返済計画」や「翌年の収入見込み」など、長期的な視点での資金計画が必要です。実行前には必ず顧問税理士に相談し、ご自身の状況に合った最適な戦略を検討してください。
参考リンク
小規模企業共済関連
国民年金基金関連
税制関連
本記事は2026年1月時点の情報に基づいています。制度内容は変更される可能性がありますので、最新情報は各公式サイトでご確認ください。また、具体的な節税対策の実行にあたっては、顧問税理士にご相談されることをおすすめします。
