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この記事にはさらなる節税効果を紹介する続編「【上級編】小規模企業共済で節税効果を最大化する2つの裏技」があります。貸付制度×国民年金基金の2階建て年金戦略、前納制度による168万円控除など、上級テクニックを解説しています。そちらもぜひご参考ください。
ITフリーランスのみなさんは業務委託でフルリモートで働いているケースが多く、電気代・通信費くらいしかコストがかからず、収入が多い割には仕入れや経費がほとんどないので税金をたくさん払うケースが多いと思います。
個人事業主や中小企業の経営者にとって、「節税」と「将来への備え」は常に頭を悩ませるテーマです。そんな方々の強い味方となるのが、国が運営する2つの共済制度──小規模企業共済と経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。
どちらも中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)が運営しており、掛金が全額経費または所得控除になるという大きな節税メリットがあります。しかし、それぞれ目的も仕組みも異なり、知らないと損をする「落とし穴」も存在します。
本記事では、両制度の違い、メリット・デメリット、2024年10月の改正内容、そして加入前に知っておくべき注意点を徹底解説します。
小規模企業共済とは?
制度の概要
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者のための「退職金制度」です。1965年(昭和40年)に発足し、2023年3月末時点で約162万人が加入、資産運用残高は約11兆円を超えています。
サラリーマンには会社からの退職金がありますが、個人事業主や小規模企業の経営者にはそれがありません。この制度は、そうした方々が廃業や引退後の生活資金を計画的に積み立てられるよう、国が用意した仕組みです。
加入資格
以下のいずれかに該当する方が加入できます。
- 建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業・サービス業(宿泊業・娯楽業)などを営む場合:常時使用する従業員が20人以下の個人事業主または会社役員
- 商業(卸売業・小売業)・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合:常時使用する従業員が5人以下の個人事業主または会社役員
- 弁護士法人・税理士法人などの士業法人:常時使用する従業員が5人以下の社員
- 上記に該当する個人事業主の共同経営者(1人につき2人まで)
掛金の仕組み
- 月額1,000円〜70,000円(500円単位で自由に設定可能)
- 年間最大84万円まで積立可能
- 掛金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
- 増額・減額・前納も可能
共済金の種類と受取方法
共済金は、解約理由によって受け取れる金額が異なります。
| 共済事由 | 対象となるケース | 受取額 |
|---|---|---|
| 共済金A | 個人事業の廃止、法人の解散など | 最も多い |
| 共済金B | 65歳以上で15年以上掛金納付、老齢給付など | 次に多い |
| 準共済金 | 法人成りして加入資格喪失など | やや少ない |
| 解約手当金 | 任意解約、12ヶ月以上の滞納による強制解約 | 最も少ない |
受取方法は「一括」「分割」「併用」の3種類から選択できます。
小規模企業共済のメリット
1. 掛金全額が所得控除
最大のメリットは、掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になることです。年間最大84万円を控除できるため、所得税・住民税の大幅な節税につながります。
例えば、課税所得500万円の個人事業主が月額7万円を掛けた場合、年間約25万円程度の節税効果が見込めます。
2. 受取時も税制優遇
共済金を受け取る際にも税制優遇があります。
- 一括受取:退職所得扱い(退職所得控除が適用され、さらに1/2課税)
- 分割受取:公的年金等の雑所得扱い(公的年金等控除が適用)
通常の事業所得として受け取るよりも、税負担が大幅に軽減されます。
3. 低金利の貸付制度
掛金の範囲内で、低金利の貸付制度を利用できます。事業資金が急に必要になった場合でも、解約せずに資金調達が可能です。
- 一般貸付:年利1.5%
- 緊急経営安定貸付:年利0.9%
- 傷病災害時貸付:年利0.9%
4. 予定利率1%で運用
掛金は予定利率1%で運用されます。銀行の定期預金と比較すると、かなり有利な利率です。
小規模企業共済のデメリットと落とし穴
1. 任意解約は元本割れリスクあり
最も注意すべき点は、任意解約(自己都合での解約)の場合、元本割れするリスクがあることです。
- 加入期間12ヶ月未満で任意解約:掛け捨て(1円も戻らない)
- 加入期間20年(240ヶ月)未満で任意解約:元本割れ
廃業や65歳以上での退任など、共済金A・Bに該当する事由であれば元本割れしませんが、単純に「やめたい」という理由での解約は損をします。
2. 掛金を減額すると運用されない
途中で掛金を減額した場合、減額した差額分は運用されずに放置されます。
例えば、月額5万円で3年間掛けた後、月額1万円に減額した場合、それまでの差額(5万円−1万円)×36ヶ月=144万円は、その後一切運用されません。結果として、長期間加入しても元本割れする可能性があります。
対策:最初から無理のない金額で設定し、余裕があれば増額する方が安全です。
3. iDeCoとの受取時期に注意(2026年改正)
2026年1月1日以降、iDeCoを一時金で受け取った後に小規模企業共済を受け取る場合、退職所得控除をフルに使うためには10年以上間隔を空ける必要があります(従来は5年)。
両方に加入している方は、受取時期の戦略が重要になります。
4. インフレリスクに対応していない
予定利率は1%で固定されているため、インフレが進行した場合、実質的な価値が目減りするリスクがあります。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは?
制度の概要
経営セーフティ共済は、取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐための共済制度です。正式名称は「中小企業倒産防止共済」といいます。
取引先が倒産して売掛金が回収できなくなった場合、無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限8,000万円)まで借入れができます。
加入資格
1年以上事業を継続している中小企業者・個人事業主が対象です。業種ごとに資本金や従業員数の要件があります。
掛金の仕組み
- 月額5,000円〜200,000円(5,000円単位で設定)
- 掛金総額800万円が上限
- 掛金は全額経費(損金・必要経費)として計上可能
- 前納(最大12ヶ月分)も可能
経営セーフティ共済のメリット
1. 取引先倒産時に無利子で借入可能
取引先が倒産した際、売掛金の回収困難額と掛金総額の10倍のいずれか少ない方の金額まで、無担保・無保証人・無利子で借入れできます。
2. 掛金全額が経費になる
法人は損金、個人事業主は必要経費として、掛金全額を経費計上できます。年間最大240万円(月額20万円×12ヶ月)の経費を作れるため、利益調整に活用されることも多いです。
3. 40ヶ月以上で解約手当金100%
掛金納付月数が40ヶ月(3年4ヶ月)以上であれば、任意解約しても掛金全額(100%)が戻ってきます。実質的に「掛け捨てではない経費」として機能します。
4. 一時貸付金制度
取引先が倒産していなくても、掛金の一定割合を一時的に借り入れることができます(年利0.9%、2024年4月時点)。
経営セーフティ共済のデメリットと落とし穴
1. 【重要】2024年10月改正:解約後2年間は損金不可
2024年10月1日以降に解約した場合、その後2年間は再加入しても掛金を経費計上できません。
これまでは、40ヶ月以上経過後に解約→すぐ再加入という「節税の裏ワザ」が可能でしたが、この改正により封じられました。
改正の背景には、加入後3〜4年で解約し、すぐ再加入する事業者が全体の約3割もいたという実態があります。本来の「連鎖倒産防止」という目的から外れた利用が問題視されました。
2. 解約手当金は全額課税対象
解約して受け取る解約手当金は、法人は益金、個人事業主は事業所得として全額課税対象になります。
掛金を経費にしていた分、解約時にはその分が利益として戻ってくるイメージです。出口戦略を考えずに解約すると、まとまった税金を払うことになります。
対策:赤字の年に解約する、退職金と相殺するなど、利益が少ない時期に解約するのがセオリーです。
3. 早期解約は元本割れ
- 加入期間12ヶ月未満:掛け捨て
- 加入期間12〜39ヶ月:元本割れ(掛金の80〜95%程度しか戻らない)
最低でも40ヶ月以上は継続する前提で加入しましょう。
4. 共済金貸付を受けると掛金の一部が消滅
取引先倒産時に共済金貸付を受けると、借入額の10分の1に相当する掛金の権利が消滅します。
例えば、800万円借りると80万円分の掛金がなくなります。無利子とはいえ、実質的にはコストがかかっていることを理解しておきましょう。
5. 夜逃げは対象外
取引先の「夜逃げ」は法的な倒産手続きではないため、共済金貸付の対象外です。破産・民事再生・手形不渡りなど、客観的な倒産手続きが必要です。
両制度の比較一覧
| 項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 |
|---|---|---|
| 目的 | 経営者の退職金 | 取引先倒産への備え |
| 運営 | 中小機構 | 中小機構 |
| 掛金上限 | 月7万円(年84万円) | 月20万円(総額800万円) |
| 税制優遇(掛金) | 所得控除 | 経費(損金/必要経費) |
| 税制優遇(受取) | 退職所得/年金所得 | 事業所得(課税対象) |
| 元本保証条件 | 廃業等なら元本以上 | 40ヶ月以上で100% |
| 貸付制度 | あり(年利0.9〜1.5%) | あり(年利0.9%) |
| 加入資格 | 従業員5〜20人以下 | 1年以上事業継続 |
どちらを選ぶべき?併用のすすめ
結論から言えば、両方とも加入するのがベストです。それぞれ目的が異なるため、併用することで「節税」「退職金準備」「取引先倒産リスク対策」を同時に実現できます。
ただし、以下のようなケースでは優先順位を考えましょう。
小規模企業共済を優先すべきケース
- 長期的な退職金準備を考えている
- 廃業・引退まで継続できる見込みがある
iDeCoと併用して老後資金を手厚くしたい
経営セーフティ共済を優先すべきケース
- 利益が出ている年の節税対策が急務
- 取引先の経営状況に不安がある
- 3〜4年後に大きな出費(設備投資など)を予定している
関連サイト・リンク集
公式サイト
手続き関連
税制・法改正情報
まとめ
小規模企業共済と経営セーフティ共済は、個人事業主や中小企業経営者にとって非常に有効な制度です。しかし、「節税になるから」という理由だけで安易に加入すると、解約時に思わぬ税負担や元本割れに苦しむことになりかねません。
加入前に押さえるべきポイント
- 小規模企業共済は廃業・引退まで続ける前提で加入する
- 掛金は最初から無理のない金額で設定(減額はデメリットあり)
- 経営セーフティ共済は40ヶ月以上継続が大前提
- 2024年10月改正により、解約後2年間は再加入しても経費不可
- 解約時の「出口戦略」を事前に考えておく
iDeCoとの併用時は受取時期の調整が重要(2026年改正に注意)
制度を正しく理解し、長期的な視点で活用することで、節税と将来への備えを両立させましょう。詳細な加入手続きや税務上の取り扱いについては、顧問税理士や中小機構への相談をおすすめします。
本記事は2026年1月時点の情報に基づいています。制度内容は変更される可能性がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。
