暗号化

セキュリティ | IT用語集

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概要・定義

暗号化(Encryption)とは、データを第三者に読み取られないよう特殊な変換を施す技術です。平文(プレーンテキスト)を暗号文(サイファーテキスト)に変換し、正しい鍵(キー)を持つ者のみが元の情報を復号(デコード)できるようにします。

企業における暗号化は、個人情報保護法やGDPRなどの法規制対応だけでなく、企業の信頼性確保とリスク軽減のための重要な技術的対策です。データの漏えいや不正アクセスが発生した場合でも、適切な暗号化により情報の実質的な保護が可能になります。

重要性とビジネスへの影響

法的コンプライアンス

  • 個人情報保護法:特定個人情報の適切な管理(技術的安全管理措置)
  • GDPR:個人データの技術的・組織的保護措置
  • PCI DSS:クレジットカード情報の暗号化義務
  • HIPAA:医療情報の暗号化要件(米国)

ビジネスリスク軽減

  • データ漏えい対策:暗号化により情報の実質的価値を無効化
  • 法的責任軽減:適切な暗号化により損害賠償リスクを低減
  • レピュテーション保護:セキュリティ事故時の企業イメージ悪化を防止
  • 競争優位性:取引先からの信頼獲得

暗号化の種類と技術的詳細

対称暗号化

特徴:暗号化と復号に同じ鍵を使用

主要アルゴリズム:

  • AES (Advanced Encryption Standard):現在の標準、256ビット推奨
  • ChaCha20:高速処理、モバイル環境に適合
  • 3DES:レガシーシステム(非推奨)

利用場面:大量データの暗号化、データベース、ファイル暗号化

非対称暗号化(公開鍵暗号)

特徴:公開鍵と秘密鍵のペアを使用

主要アルゴリズム:

  • RSA:最も普及、2048ビット以上推奨
  • ECC (Elliptic Curve Cryptography):少ないビット数で高いセキュリティ
  • Ed25519:高速デジタル署名

利用場面:SSL/TLS、デジタル署名、鍵交換

ハッシュ化

特徴:一方向変換、復号不可能

主要アルゴリズム:

  • SHA-256:現在の標準
  • SHA-3:最新標準
  • bcrypt:パスワード専用

利用場面:パスワード保存、データ整合性確認

実装方法・技術的詳細

1. 保存時暗号化(Data at Rest)

データベース暗号化:

  • TDE(Transparent Data Encryption):SQL Server、Oracle
  • フィールドレベル暗号化:機密度の高いカラムのみ
  • アプリケーション暗号化:データベース管理者からも保護

ファイル暗号化:

  • フルディスク暗号化:BitLocker、FileVault
  • ファイル個別暗号化:7-Zip、GnuPG
  • クラウドストレージ暗号化:AWS S3、Azure Blob

2. 転送時暗号化(Data in Transit)

Webトラフィック:

  • TLS 1.3:最新バージョン、高速かつ安全
  • HTTPS:Web標準、全ページ適用推奨
  • HSTS:HTTP Strict Transport Security

API通信:

  • OAuth 2.0 + JWT:認証と暗号化
  • API Key暗号化:APIキーの安全な管理
  • mTLS:相互認証

3. 処理時暗号化(Data in Use)

最新技術:

  • 準同型暗号:暗号化したまま計算実行
  • セキュアマルチパーティ計算:複数の当事者が秘密を共有せずに計算
  • Intel SGX:ハードウェアベースの暗号化

具体的な実装例

金融機関での実装事例

要件:顧客の口座情報・取引履歴の保護

実装:

  • データベース:AES-256によるフィールドレベル暗号化
  • API通信:TLS 1.3 + OAuth 2.0
  • バックアップ:暗号化した状態でクラウドストレージに保存
  • 鍵管理:HSM(Hardware Security Module)による厳重な鍵管理

効果:データ漏えい時の実質的な被害ゼロ、監査対応の簡素化

医療機関での実装事例

要件:電子カルテ・診療記録の保護

実装:

  • 端末:フルディスク暗号化(BitLocker)
  • 転送:専用VPN + TLS暗号化
  • 保存:患者IDと診療内容を分離暗号化
  • アクセス:多要素認証 + 暗号化通信

効果:HIPAA準拠、患者プライバシー保護、医療事故時の法的リスク軽減

鍵管理のベストプラクティス

鍵のライフサイクル管理

  1. 生成:暗号学的に安全な乱数生成器を使用
  2. 配布:安全なチャネルでの鍵交換
  3. 保存:HSMまたはKMS(Key Management Service)
  4. 使用:最小権限の原則
  5. 更新:定期的な鍵ローテーション
  6. 廃棄:安全な消去・証明書の失効

クラウドでの鍵管理

  • AWS KMS:自動ローテーション、CloudTrail連携
  • Azure Key Vault:シークレット管理、HSM統合
  • Google Cloud KMS:IAM統合、監査ログ
  • HashiCorp Vault:マルチクラウド対応

導入時の注意点・ベストプラクティス

パフォーマンス考慮事項

影響要因:

  • 暗号化処理によるCPU負荷増大
  • 鍵管理システムへのアクセス遅延
  • データサイズの増大(パディング)

対策:

  • ハードウェア加速(AES-NI)の活用
  • 鍵キャッシュ機能の実装
  • 暗号化範囲の最適化

運用上の注意点

  • 鍵の紛失対策:複数の安全な場所でのバックアップ
  • アクセス制御:暗号化キーへのアクセス権限管理
  • 監査対応:暗号化状況の定期的な確認
  • 災害復旧:暗号化環境の復旧手順整備

コスト最適化

  • 段階的導入:機密度の高いデータから優先実装
  • クラウドサービス活用:初期投資の削減
  • オープンソース利用:ライセンスコストの削減
  • 統合ソリューション:管理コストの削減

暗号化は現代企業にとって必須の技術的対策です。適切な実装と運用により、データ保護とコンプライアンス対応の両立が可能になります。重要なのは、ビジネス要件に応じた最適な暗号化戦略の策定と、継続的な見直しです。

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