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IoT・エッジ | IT用語集

Raspberry Piとは

Raspberry Pi(ラズベリーパイ)は、英国のRaspberry Pi財団(現在は事業会社Raspberry Pi Ltd.)が開発・販売する、名刺サイズ程度の基板に収まる格安シングルボードコンピュータ(SBC)です。Linuxディストリビューションである公式OS「Raspberry Pi OS」(Debianベース)をはじめ、Ubuntu・LibreELEC・RISC OSなど複数のOSを起動でき、基板上のGPIO(General Purpose Input/Output、汎用入出力)ピンを介してLED・センサー・モーター・リレーなどの外部ハードウェアを直接制御できるのが最大の特徴です。

2012年に教育用途(プログラミング学習・コンピュータサイエンス教育の普及)を目的として初代モデルが登場して以来、Model B、Zero、3、4、5と世代を重ね、現在ではSTEM教育の枠を超えてIoTゲートウェイ、産業用HMI(表示・操作端末)、エッジAI推論、ホームサーバー、ロボティクスの試作機など、実務・研究の現場でも広く採用されています。2024年6月にはRaspberry Pi Ltd.がロンドン証券取引所(LSE、コード:RPI)に上場するなど、教育向けホビー基板から事業規模を拡大した企業へと成長している点も特徴的です。

仕組み・アーキテクチャ

Raspberry Piの中核はBroadcom製のSoC(System on Chip)で、CPU・GPU・メモリコントローラ・各種インターフェースが1チップに統合されています。起動時はSDカード(またはNVMe SSD/ネットワーク)上のブートローダーがファームウェアを読み込み、Linuxカーネルを起動する流れで、一般的なPCのようにBIOS/UEFI操作画面を意識する必要はほぼありません。GPIOピンはBCM2712(Pi 5)などのSoCから直接引き出されており、PythonのgpiozeroライブラリやC言語のWiringPi系ライブラリ、あるいはRaspberry Pi財団純正のrpi-lgpioを使ってソフトウェアからピンのON/OFF・PWM出力・割り込み検知を行います。

#!/usr/bin/env python3
from gpiozero import LED, Button
from signal import pause

led = LED(17)          # GPIO17に接続したLED
button = Button(2)     # GPIO2に接続したタクトスイッチ

button.when_pressed = led.on
button.when_released = led.off

pause()

Raspberry Pi 4以降はUSB Boot・NVMe Boot(Pi 5はPCIe経由でM.2 SSDから直接起動可能)に対応し、microSDカードの読み書き速度や耐久性のボトルネックを回避できるようになった点も、IoTゲートウェイや常時稼働サーバー用途での採用を後押ししています。OSのインストール自体は公式ツール「Raspberry Pi Imager」を使えば、PCからmicroSDやSSDにOSイメージを書き込む際にホスト名・SSH有効化・Wi-Fi設定・ユーザー名/パスワードまで事前設定できるため、モニタやキーボードを繋がない「ヘッドレスセットアップ」がIoT用途では定番の導入手順になっています。

世代ごとの立ち位置を把握しておくと選定がしやすくなります。参考までに主要モデルの変遷を整理すると次の通りです。

モデル 発売時期の目安 CPU傾向 主な用途
Raspberry Pi Zero系 2015年〜 シングルコア〜クアッドコア(省電力・小型重視) 超小型IoTノード、バッテリー併用の軽量用途
Raspberry Pi 3 Model B/B+ 2016年頃〜 Cortex-A53 4コア 教育用途、軽量サーバー、初学者向け定番機
Raspberry Pi 4 Model B 2019年〜 Cortex-A72 4コア デスクトップ代替、エッジAI、NAS的サーバー用途
Raspberry Pi 5 2023年〜 Cortex-A76 4コア エッジAI推論、産業HMI、NVMe SSDを使う常時稼働用途

Raspberry Pi 5の主なスペックと無線仕様

現行の主力モデルであるRaspberry Pi 5(2023年発売)のスペックは以下の通りです。

  • CPU:Arm Cortex-A76 4コア 2.4GHz(Broadcom BCM2712、RPi 4比おおむね2〜2.5倍高速)
  • GPU:VideoCore VII(4Kデコード対応)
  • RAM:4GB/8GB/16GB LPDDR4X(容量はモデルにより選択)
  • ストレージ:microSDカードスロット+PCIe経由のM.2 NVMe SSD対応(別売HAT併用)
  • 有線接続:USB 3.0×2、USB 2.0×2、Gigabit Ethernet、micro HDMI×2(4K/60Hz対応)
  • GPIO:40ピン(うち26本程度が汎用I/Oとして利用可能)
  • 価格帯:4GB版で約60ドル、8GB版で約80ドル程度(為替・販売店により変動)

IoT機器として重要なのが内蔵無線モジュールの仕様です。カテゴリの他項目(Wi-Fi・BLE・5G)と同じ切り口で整理すると、次のようになります。

無線規格 周波数帯 通信距離の目安 実効速度の目安 消費電力の傾向
Wi-Fi 6(802.11ax) 2.4GHz/5GHz 屋内10〜30m程度(障害物で変動) 実効で数百Mbps程度(理論値は1Gbps超) 常時通信で数百mW〜1W前後(マイコンのWi-Fiより高め)
Bluetooth 5.0 / BLE 2.4GHz 屋内10〜40m程度 最大2Mbps PHY(実効はさらに低下) BLEモードは低消費だがPi本体全体の消費電力には埋没しやすい
Gigabit Ethernet 有線 ケーブル長依存(最大100m) 実効で数百Mbps〜1Gbps Wi-Fiより安定・低遅延だが配線コストあり

注意点として、Raspberry Pi本体はUSBやHDMI、Wi-Fi/BLEチップなど多数のペリフェラルを常時駆動するため、LoRaWANやZigBeeのような数年単位の電池駆動を前提とするIoTデバイスと比べると消費電力ははるかに大きく、数百mA〜1A超(5V駆動時)の電源供給能力が必要です。バッテリー駆動での長期無人運用には不向きで、あくまで「ACアダプタ常時給電+ゲートウェイ/エッジ処理」という位置づけで設計するのが実務上の定石です。

IoT・AI活用例

実務・研究の現場では、Raspberry Piは単体のセンサーノードというより「複数のセンサー・アクチュエータをまとめて処理し、上位クラウドやオンプレサーバーへ橋渡しするゲートウェイ/エッジノード」として使われることが多いです。代表的なパターンは次の通りです。

  • MQTTブローカー/エッジゲートウェイ:Mosquittoなどを稼働させ、下位のZigBee・BLE・LoRaWANセンサーからのデータを集約してAWS IoT CoreやAzure IoT Hubへ中継
  • エッジAI推論:TensorFlow Lite・ONNX Runtime・PyTorch Mobileで画像分類・物体検出・異常音検知モデルを実行し、Raspberry Pi AI Camera(Sony IMX500搭載)やAI HAT+(Hailo製NPU搭載)を追加してカメラ側で推論を完結させる「オンセンサー推論」構成も普及
  • ローカルサーバー・軽量RAG:Webサーバー、Home Assistant等のホームオートメーションハブ、社内向けの小規模データベースサーバー
  • 産業HMI・キオスク端末:タッチパネルと組み合わせた設備監視パネル、受付・券売機のデジタルサイネージ
  • ロボティクス・自律移動体の頭脳部:モータードライバHATと組み合わせ、上位の経路計画・画像処理をPi側、モーター制御のリアルタイム部分を別途マイコンに分担させる構成

メリット・デメリット(注意点)

メリット デメリット・注意点
本体価格が数千円〜1万円台と安価で、教育予算・試作予算でも導入しやすい Linuxベースのため割り込み応答にゆらぎがあり、ミリ秒単位の厳密なリアルタイム制御には不向き
世界的なコミュニティがあり、日本語含め情報・トラブルシューティング事例が豊富 マイコンボードに比べ消費電力が大きく、電池のみでの長期無人運用には向かない
Python・C/C++・Node.js等、フルOS上で使い慣れた言語・フレームワークをそのまま使える microSD運用時は突然の電源断でファイルシステムが破損しやすく、産業用途ではSSD化や読み取り専用ファイルシステム化などの対策が必要
HAT(拡張基板)エコシステムが充実し、センサー・ディスプレイ・モータードライバ等を配線工数少なく追加可能 汎用OSが動く分、初期設定でのセキュリティ対策(デフォルトパスワード変更、不要サービス停止、SSH鍵認証化)を利用者自身が行う必要がある
主要モデルは長期供給がアナウンスされており、量産機器への組み込みでも計画が立てやすい 半導体不足が深刻だった2021〜2023年頃には品薄・価格高騰が発生した経緯があり、供給計画は為替・需給の影響を受けやすい

混同されやすい用語・類似技術との違い

「Raspberry Pi」という名前がついた製品や、見た目・用途が似ている他のボードとの混同が非常に多いため、代表的なものを整理します。

  • Raspberry Pi Pico(RP2040/RP2350):同じ財団が出していますが、こちらはLinuxが動くSBCではなく、単体のマイコン(MCU)ボードです。OSを持たずファームウェアを直接書き込んで動かすため、Arduinoに近い立ち位置で、価格も1,000円未満と大幅に安く、消費電力もはるかに低い点が異なります。
  • Arduino:AVR系やARM Cortex-Mなどのマイコンを搭載した基板で、OSを持たずリアルタイム性の高いセンサー読み取り・モーター制御が得意です。Raspberry Piは「複雑な処理・ネットワーク・マルチタスク」、Arduinoは「単純だが確実なリアルタイム制御」という住み分けが実務上の定石で、両者をシリアル通信やI2Cで連携させるハイブリッド構成もよく使われます。
  • ESP32:Wi-Fi・Bluetoothを内蔵した安価なマイコンで、数百円程度から入手可能。単機能のIoTセンサーノードや、バッテリー駆動の末端デバイスに向いており、Raspberry Piのような汎用OS運用はできません。
  • NVIDIA Jetson Nano / Orin Nano:AI推論に特化したGPU(CUDAコア)を搭載するSBCで、深層学習モデルの推論速度はRaspberry Pi単体より大幅に高速です。価格・消費電力はRaspberry Piより高めで、画像認識・自動運転向けの重い推論を回したい場合の選択肢になります。
  • BeagleBone Black:Raspberry Piと同系統のLinux SBCですが、リアルタイム制御向けのPRU(Programmable Realtime Unit)を搭載しており、産業制御寄りの用途で選ばれることがあります。
  • Orange Pi / Banana Pi等の互換ボード:Raspberry Piと似た形状・GPIO配置を持つ中国製SBCで、価格や性能で優位な場合もありますが、公式コミュニティ・長期サポート・ソフトウェア互換性の面ではRaspberry Piに一日の長があります。
製品 分類 OS 得意分野 価格帯の目安
Raspberry Pi 5 SBC Linux(フルOS) 汎用処理・ゲートウェイ・エッジAI・HMI 1万円前後〜
Raspberry Pi Pico 2 マイコンボード なし(ベアメタル/RTOS) 低消費電力・リアルタイム制御 数百円〜1,000円程度
Arduino Uno系 マイコンボード なし 教育・シンプルな制御 数千円程度
ESP32系ボード マイコンボード(無線内蔵) なし/FreeRTOS 低価格の無線センサーノード 数百円〜1,000円程度
Jetson Orin Nano SBC(AI特化) Linux(JetPack) 高負荷な深層学習推論 2万円台後半〜

導入・運用の実務ポイント

  • 電源品質:Pi 5系は起動時・高負荷時に瞬間的な電流ピークが発生するため、公式推奨のUSB-C PD電源(27W程度)や品質の低いモバイルバッテリーを避けることが、原因不明の再起動・SDカード破損の予防になります。
  • 冷却:Cortex-A76の高クロック動作により、Pi 4以前より発熱が増しているため、常時高負荷で使う場合はアクティブクーラーやヒートシンク付きケースの併用が実務上ほぼ必須です。
  • ストレージ耐久性:microSD運用のままログを頻繁に書き込むと、書き込み回数の上限に近づき数か月〜数年で寿命を迎えることがあります。ログのRAMディスク化、あるいはM.2 NVMe SSDへの移行が定石です。
  • 電源断対策:産業用途・無人設置では、UPS(無停電電源装置)代わりの小型バッテリーHATや、ファイルシステムの読み取り専用化(overlayfs運用)で不意の電源断による破損を防ぎます。
  • セキュリティ初期設定:出荷時設定のまま外部公開しない、SSHはパスワード認証を無効化し鍵認証にする、不要なサービス(VNC等)を停止する、といった基本対策は利用者側の責任範囲です。
  • 法令・認証:日本国内で無線機能(Wi-Fi/Bluetooth)を利用する場合、Raspberry Pi財団は技術基準適合証明(技適)を取得済みのモデルを流通させていますが、購入経路によっては未認証品が混在するリスクがあるため、正規代理店からの購入が無難です。

2025〜2026年の最新動向

  • AIアクセラレータの標準化:Hailo製NPUを搭載する「Raspberry Pi AI HAT+」(13TOPS/26TOPSモデル)や、Sony IMX500センサーを内蔵しカメラ側で推論を完結できる「Raspberry Pi AI Camera」が普及し、Pi本体のCPU負荷を上げずにエッジAI推論を行う構成が一般化しつつあります。
  • ラインアップの拡充:キーボード一体型の「Raspberry Pi 500」、公式モニタとのセット販売など、PC的な使い方を想定した製品ラインが拡大しています。
  • 企業としての成長:運営元のRaspberry Pi Ltd.が2024年6月にロンドン証券取引所へ上場し、教育・ホビー用途にとどまらず産業・組み込み市場向けの事業(Compute Module系のB2B供給等)に一段と力を入れる姿勢を示しています。
  • 供給の安定化:2021〜2023年に深刻だった半導体不足由来の品薄・価格高騰は、2024年以降おおむね解消に向かっているとされ、量産採用の計画も立てやすくなっています。
  • 周辺エコシステムの成熟:Home AssistantやNode-REDなど、Raspberry Pi上で動くIoT向けOSS基盤のアップデートが継続しており、ノーコード/ローコードでのIoTゲートウェイ構築がしやすくなっています。

よくある質問(FAQ)

Q. Raspberry Piとは何ですか?

Raspberry Pi(ラズパイ)は手のひらサイズの格安Linux搭載シングルボードコンピュータです。GPIO端子でセンサー・アクチュエータを制御でき、IoTプロトタイピング・エッジAI・ロボット・教育用に使われています。最新のRaspberry Pi 5は4コアCortex-A76でRPi 4比2〜2.5倍程度の性能を持ちます。

Q. Raspberry PiとArduinoの違いは何ですか?

Raspberry PiはLinux搭載の小型コンピュータで、プログラミング・マルチタスク・ネットワーク接続が得意です。ArduinoはシンプルなMCU(マイコン)で、センサー読み取り・アクチュエータ制御等のリアルタイム制御に特化しています。複雑な処理はRPi、単純なリアルタイム制御はArduinoという使い分けが一般的です。

Q. Raspberry PiでAIを動かせますか?

はい。TensorFlow Lite・PyTorch・ONNX Runtimeを使って画像認識・音声認識・物体検出等のAI推論が可能です。Raspberry Pi 5はRPi 4比2〜2.5倍程度高速なためAI処理も向上しています。さらに高速なAI処理には、Raspberry Pi AI Camera(Sony IMX500搭載)やRaspberry Pi AI HAT+(Hailo製NPU搭載)、Coral USB Accelerator等のAIアクセラレータを追加できます。

Q. Raspberry Piはバッテリー駆動のIoTセンサーに使えますか?

技術的には可能ですが、マイコンボード(ESP32やRaspberry Pi Pico等)に比べて消費電力がはるかに大きいため、電池のみで数か月〜数年単位の無人運用をするような用途には不向きです。バッテリー駆動を前提とする末端センサーはマイコン系ボードに任せ、Raspberry Piはそれらを束ねるゲートウェイ役として使う設計が実務上の定石です。

Q. Raspberry PiとRaspberry Pi Picoは何が違いますか?

同じ財団の製品ですが別カテゴリです。Raspberry Pi(無印)はLinuxが動くシングルボードコンピュータ、Raspberry Pi PicoはOSを持たないマイコン(MCU)ボードです。Picoは価格・消費電力が大幅に低く、単純なセンサー読み取りやモーター制御などリアルタイム性を要する処理に向いています。

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外部リンク・参考資料

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