組み込みシステム

IoT・エッジ | IT用語集

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組み込みシステムとは

組み込みシステム(Embedded System)は、特定の機能を実現するために機器や装置に内蔵されたコンピュータシステムです。一般的なパソコンやスマートフォンとは異なり、特定の用途に特化して設計され、そのデバイスの一部として組み込まれています。

組み込みシステムは、ハードウェアとソフトウェアが密接に連携して動作し、リアルタイム性、省電力、高い信頼性が求められる環境で使用されます。マイクロコントローラ(マイコン)を中心とした小型のコンピュータシステムが一般的です。

組み込みシステムの主な特徴

1. 特定用途への特化

汎用的なコンピュータとは異なり、特定の機能や用途に特化して設計されています。そのため、必要な機能のみを実装し、無駄な機能を省くことで効率的なシステムを構築できます。

2. リアルタイム性

センサーからの入力や外部からの信号に対して、決められた時間内に必ず応答する必要があります。この要求を満たすため、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)が使用されることが多いです。

3. 省電力・省リソース

バッテリー駆動や限られた電力供給環境での動作が多いため、消費電力を最小限に抑える設計が重要です。また、メモリやストレージなどのリソースも限られているため、効率的な使用が求められます。

4. 高い信頼性

自動車、医療機器、航空宇宙などの分野では、システムの故障が深刻な影響を与える可能性があるため、非常に高い信頼性が要求されます。

5. 小型化・軽量化

組み込まれる機器の制約により、物理的なサイズや重量の制限があります。チップサイズの最小化や基板面積の削減が重要な設計要素となります。

組み込みシステムの構成要素

マイクロコントローラ(MCU)

CPU、メモリ、入出力インターフェースを1つのチップに集積したプロセッサです。ARM Cortex-M、AVR、PIC、ESP32などが代表的です。用途に応じて性能や機能を選択できます。

メモリ

プログラムを格納するフラッシュメモリ(ROM)と、データを一時的に保存するRAMで構成されます。組み込みシステムでは、一般的にメモリ容量が制限されるため、効率的なメモリ使用が重要です。

入出力インターフェース

センサーやアクチュエータとの接続に使用されるアナログ入力、デジタル入出力、PWM出力、シリアル通信(UART、SPI、I2C)などのインターフェースが含まれます。

電源回路

安定した電力供給を行うため、電圧レギュレータ、バッテリー管理回路、電源監視回路などが含まれます。省電力設計では、スリープモードや電源管理機能が重要です。

ソフトウェア

組み込みOS(RTOS)、デバイスドライバー、アプリケーションプログラムで構成されます。C/C++言語での開発が一般的で、アセンブリ言語が使用されることもあります。

主要な応用分野

1. 自動車・車載システム

エンジン制御、ブレーキ制御、エアバッグ、カーナビゲーション、先進運転支援システム(ADAS)などに使用されます。自動運転技術の発展により、高性能な組み込みシステムの需要が増加しています。

2. 家電製品

洗濯機、冷蔵庫、エアコン、電子レンジなどの白物家電から、テレビ、オーディオ機器などの黒物家電まで、幅広い製品に組み込まれています。IoT化によりスマート家電としての機能も拡大しています。

3. 医療機器

心電図モニター、血圧計、人工呼吸器、ペースメーカー、MRI装置などの医療機器に使用されます。人命に関わるため、極めて高い信頼性と安全性が要求されます。

4. 産業機器・制御システム

工場の生産ライン制御、ロボット制御、計測機器、センサーネットワークなどに使用されます。Industry 4.0の推進により、IoT対応の組み込みシステムが増加しています。

5. 通信機器

ルーター、スイッチ、無線LAN機器、スマートフォンの基地局などの通信インフラに使用されます。5G技術の展開により、高性能な組み込みシステムが求められています。

6. 航空宇宙・防衛

人工衛星、航空機の制御システム、ミサイル制御システムなどに使用されます。極限環境での動作と極めて高い信頼性が要求されます。

組み込みシステムの開発プロセス

要件定義・仕様策定

システムの機能要件、性能要件、制約条件を明確に定義します。リアルタイム性、消費電力、コスト、サイズなどの制約を考慮した設計が必要です。

ハードウェア設計

マイクロコントローラの選定、回路設計、PCB設計を行います。信号の整合性、電源設計、EMC(電磁両立性)対策などが重要な設計要素となります。

ソフトウェア開発

組み込みOS、デバイスドライバー、アプリケーションプログラムを開発します。C/C++言語での開発が主流で、リアルタイム性を考慮したプログラミングが必要です。

統合テスト・検証

ハードウェアとソフトウェアを統合し、システム全体の動作を検証します。リアルタイム性、信頼性、耐久性などの品質要件を満たすことを確認します。

量産・保守

製造工程の最適化、品質管理、アフターサービスを含む製品ライフサイクル全体を管理します。

組み込みシステムの開発ツール

統合開発環境(IDE)

Keil MDK、IAR Embedded Workbench、Eclipse CDT、Arduino IDE、PlatformIOなどが使用されます。これらのツールにより、効率的なコード開発、デバッグ、テストが可能になります。

デバッガー・エミュレーター

JTAG、SWD、ICE(In-Circuit Emulator)などのハードウェアデバッガーを使用して、実際のハードウェア上でのプログラム実行を監視・制御します。

シミュレーター

ハードウェアが完成する前にソフトウェアの動作を検証できるシミュレーション環境です。開発効率の向上と早期のバグ発見に有効です。

企業での活用事例

スマート家電の制御システム

大手家電メーカーでは、エアコンに組み込みシステムを搭載し、AIを活用した省エネ制御を実現。使用者の行動パターンを学習し、最適な温度制御を行うことで、消費電力を20%削減しました。

産業用ロボットの制御

製造業では、産業用ロボットに高性能組み込みシステムを搭載し、リアルタイム制御を実現。位置精度の向上と動作速度の高速化により、生産効率を30%向上させました。

自動車の安全システム

自動車メーカーでは、衝突回避システムに組み込みシステムを使用し、カメラやセンサーからの情報をリアルタイムで処理。緊急ブレーキシステムにより、事故発生率を40%削減しました。

技術的課題と解決策

リアルタイム性の保証

厳格な時間制約がある処理に対しては、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)を使用し、タスクの優先度管理と割り込み処理の最適化を行います。

省電力化

動的電圧・周波数制御(DVFS)、クロックゲーティング、パワーゲーティングなどの技術により、不要な回路部分の電力消費を削減します。

セキュリティ対策

IoT化に伴い、セキュリティ脅威が増加しています。ハードウェアベースの暗号化、セキュアブート、定期的なファームウェア更新などの対策が必要です。

開発効率の向上

モデルベース開発、自動コード生成、継続的統合(CI/CD)などの手法により、開発期間の短縮と品質向上を実現します。

今後の技術動向

組み込みシステムの分野では、AIチップの組み込み(エッジAI)、5G通信対応、量子コンピューティング技術の活用などが注目されています。特に、機械学習推論をエッジデバイスで実行するエッジAIにより、リアルタイム処理能力が大幅に向上しています。

また、セキュリティ強化のため、ハードウェアセキュリティモジュール(HSM)の搭載、ゼロトラスト アーキテクチャの適用、ブロックチェーン技術の活用なども進んでいます。

今後は、6G通信、量子センシング、脳型コンピューティングなどの新技術と組み込みシステムの融合により、これまで実現困難だった高度な機能を持つシステムが実現されることが期待されています。組み込みシステムは、デジタル社会の基盤技術として、ますます重要な役割を果たすでしょう。

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