CASB (Cloud Access Security Broker)

インフラセキュリティ | IT用語集

この用語をシェア

概要

CASB(Cloud Access Security Broker)は、組織とクラウドサービスプロバイダーの間に位置し、クラウドサービスの利用を可視化・制御・保護するセキュリティソリューションです。企業が利用するクラウドアプリケーションへのアクセスを監視し、セキュリティポリシーを適用することで、クラウド環境の安全性を確保します。

主な機能

可視性(Visibility)

組織内で利用されているクラウドサービスを発見・特定し、使用状況を可視化します。シャドウITの検出、ユーザーの活動監視、データの流れの把握などを行います。

コンプライアンス(Compliance)

規制要件やセキュリティポリシーに準拠しているかを監視・評価します。データ保護規制(GDPR、HIPAAなど)への対応状況を確認し、コンプライアンス違反を防止します。

データセキュリティ(Data Security)

機密データの検出、分類、保護を行います。DLP(Data Loss Prevention)機能により、重要なデータの外部流出を防ぎ、暗号化やアクセス制御を実装します。

脅威防御(Threat Protection)

マルウェア、アノマリー検出、不正アクセスの監視を行います。機械学習やAIを活用して、既知・未知の脅威を検出し、リアルタイムで対応します。

導入形態

Forward Proxy(フォワードプロキシ)

ユーザーとクラウドサービス間の通信を中継し、リアルタイムでセキュリティ制御を行う方式です。インラインでの監視・制御が可能で、即座にポリシーを適用できます。

Reverse Proxy(リバースプロキシ)

特定のクラウドアプリケーションの前に配置し、アクセス制御を行う方式です。詳細なアクセス制御とセッション管理が可能です。

API-based(API ベース)

クラウドサービスのAPIを活用して、設定情報の取得、ユーザー活動の監査、ポリシー適用を行う方式です。既存環境への影響を最小限に抑えて導入できます。

主要なベンダー

  • Microsoft Cloud App Security - Office 365との統合に優れた統合型ソリューション
  • Netskope - 包括的なクラウドセキュリティプラットフォーム
  • Zscaler - ゼロトラストアーキテクチャと組み合わせたソリューション
  • Forcepoint - データ中心のセキュリティアプローチ
  • Skyhigh Security - 詳細な可視性と制御機能

導入メリット

シャドウIT対策

IT部門が把握していないクラウドサービスの利用を発見し、適切な管理下に置くことができます。リスクの高いサービスの使用を制限し、承認されたサービスへの移行を促進します。

データ保護強化

機密データの場所と移動を追跡し、不正な共有や流出を防止します。データ分類とラベル付けにより、情報の重要度に応じた保護措置を実装できます。

コンプライアンス確保

規制要件への準拠状況を継続的に監視し、監査対応を自動化します。違反の早期発見と修正により、法的リスクを軽減できます。

運用効率向上

セキュリティポリシーの自動適用により、管理工数を削減します。統一されたダッシュボードで、複数のクラウドサービスを一元管理できます。

実装のベストプラクティス

段階的導入

まず可視性機能から開始し、組織のクラウド利用状況を把握してから制御機能を追加します。ユーザーへの影響を最小限に抑えながら、段階的にセキュリティを強化します。

ポリシー設計

業務要件とセキュリティ要件のバランスを考慮したポリシーを策定します。過度に厳しい制限は業務効率を損なうため、リスクベースのアプローチを採用します。

ユーザー教育

CASBの導入目的とセキュリティポリシーについて、ユーザーへの教育を実施します。セキュリティ意識の向上により、自発的な協力を促進します。

継続的な最適化

利用状況とセキュリティインシデントを定期的に分析し、ポリシーの見直しを行います。新しい脅威やビジネス要件の変化に応じて、設定を更新します。

課題と考慮事項

パフォーマンスへの影響

プロキシ経由でのアクセスは、レスポンス時間の増加を引き起こす可能性があります。適切なキャパシティプランニングと最適化が必要です。

ユーザビリティ

過度なセキュリティ制御は、ユーザーの利便性を損なう可能性があります。業務効率とセキュリティのバランスを慎重に調整する必要があります。

カバレッジの限界

すべてのクラウドサービスがCASBでサポートされているわけではありません。新しいサービスやニッチなアプリケーションには対応できない場合があります。

市場動向と技術背景

市場成長の背景

CASB市場は年平均成長率(CAGR)25%以上で急速に拡大しています。リモートワークの普及とクラウドファーストアーキテクチャへの移行により、従来の境界防御モデルでは対応できないセキュリティ課題が顕在化。企業の約94%が複数のクラウドサービスを利用する現状で、統合的なセキュリティ管理の必要性が高まっています。

技術進化のトレンド

AI/機械学習を活用した異常検知機能が標準化し、従来の定義ベース検知では対応困難な高度な脅威にも対応可能になりました。また、ゼロトラストアーキテクチャとの統合により、「信頼しない、必ず検証する」アプローチがCASBの基本方針として確立されています。

アーキテクチャと技術コンポーネント

統合型CASBアーキテクチャ

現代のCASBは単体ソリューションから統合プラットフォームへと進化しています。主要コンポーネントには以下が含まれます:

  • ディスカバリエンジン - ネットワークトラフィック分析によるシャドウIT検出
  • リスクアセスメント - クラウドサービスのセキュリティ態勢評価
  • ポリシーエンジン - 動的セキュリティルール適用とガバナンス
  • 分析プラットフォーム - 行動分析とインシデント相関解析

次世代CASBの技術革新

コンテナ化されたマイクロサービスアーキテクチャにより、特定のクラウドサービスに最適化されたセキュリティ機能を動的に展開。API-firstアプローチで、DevOpsパイプラインとの統合を実現し、継続的セキュリティ(Continuous Security)を提供します。

段階的導入アプローチ

フェーズ1: 発見と可視化(1-2ヶ月)

まずディスカバリエンジンを展開し、組織内のクラウドサービス利用状況を把握。ネットワークログ分析、DNS査詢監視、エンドポイント調査により、包括的なインベントリを構築します。この段階では制御は実装せず、現状の理解に集中します。

フェーズ2: リスク評価とポリシー設計(2-3ヶ月)

発見されたクラウドサービスのリスクスコアリング、データ分類、コンプライアンス要件マッピングを実施。業務影響を最小化するセキュリティポリシーを設計し、ステークホルダーとの合意形成を行います。

フェーズ3: 段階的制御実装(3-6ヶ月)

低リスクサービスから段階的に制御を開始。まずモニタリングモードで運用し、誤検知の調整とポリシーの最適化を実施。その後、ブロック機能を有効化し、完全な制御環境を構築します。

ROI計算とコスト分析

投資対効果の定量化

CASB導入による年間ROIは平均180-250%とされています。主な効果指標:

  • セキュリティインシデント削減 - 年間コスト削減額:500万円-2,000万円
  • コンプライアンス対応効率化 - 監査工数削減:年間800-1,200時間
  • IT管理効率化 - 管理者工数削減:40-60%
  • シャドウIT統制 - 未許可サービス削減率:70-85%

総所有コスト(TCO)分析

3年間TCOは企業規模により大きく変動。従業員1,000名企業での概算:

  • 初期導入費用 - 300-500万円(ライセンス、設定、トレーニング)
  • 年間運用費用 - 200-400万円(ライセンス更新、保守、運用工数)
  • 隠れコスト - パフォーマンス影響、ユーザー生産性への影響考慮が重要

主要ベンダー詳細比較

Gartner評価と市場ポジション

2024年Gartner Magic Quadrantでは以下のベンダーがリーダー位置:

Microsoft Defender for Cloud Apps

  • 強み - Office 365/Azure完全統合、コスト効率、AI駆動分析
  • 適用領域 - Microsoft環境中心の中規模企業
  • 価格帯 - ユーザー当たり月額$2-4(E3/E5ライセンス込み)

Netskope Security Cloud

  • 強み - 包括的クラウドカバレッジ、高度なデータ分類、リアルタイム制御
  • 適用領域 - マルチクラウド環境の大企業
  • 価格帯 - ユーザー当たり月額$8-15

Zscaler Cloud Security Platform

  • 強み - ゼロトラスト統合、グローバルクラウド配信、高パフォーマンス
  • 適用領域 - グローバル企業、高トラフィック環境
  • 価格帯 - ユーザー当たり月額$12-20

大手企業導入事例

製造業グローバル企業A社(従業員50,000名)

課題: 各地域で独自にクラウドサービスを導入し、セキュリティポリシーが統一されていない状況。特にBox、Dropbox、WeChat Work等、地域特有のサービスの管理が困難。

解決策: NetskopeCASBを全社展開。地域ごとのポリシー差分を考慮した段階的導入。

成果: シャドウIT検出率78%向上、データ流出インシデント90%削減、コンプライアンス監査工数60%削減。年間セキュリティコスト2,000万円削減。

金融機関B社(従業員15,000名)

課題: 厳格な規制要件(Basel III、GDPR)遵守と業務効率化の両立。特にSalesforce、Office 365での顧客データ取扱いの統制が急務。

解決策: Microsoft Defender for Cloud Appsを段階導入。カスタムDLPルール設定と自動分類実装。

成果: 規制違反リスク85%削減、監査対応時間70%短縮。ROI230%を2年目で達成。

次世代技術との統合

AI/機械学習との融合

次世代CASBは機械学習による行動分析(UEBA)を標準搭載。正常ユーザー行動のベースライン学習により、アカウント乗っ取り、内部不正、APT攻撃の早期検知を実現。誤検知率を従来の50%以下に削減しています。

SASE統合による包括セキュリティ

Secure Access Service Edge(SASE)アーキテクチャ内でCASBが中核機能として統合。ネットワークセキュリティとクラウドセキュリティの境界が消失し、ユニファイドセキュリティプラットフォームとして進化しています。

量子耐性暗号化への対応

量子コンピューティング時代を見据え、次世代CASBは量子耐性暗号アルゴリズム(Post-Quantum Cryptography)対応を開始。NIST標準化完了後の移行計画策定が重要です。

実装時のよくある質問(FAQ)

Q: 既存VPNとの併用は可能ですか?

A: 可能です。CASBはVPNとは異なる層で動作するため、併用により多層防御を実現できます。VPN経由のトラフィックも含めてクラウドアクセスを制御可能です。

Q: パフォーマンスへの影響はどの程度ですか?

A: プロキシ型で平均10-50ms、API型では影響なし。ただし、地理的配置と設定最適化により大幅に改善可能です。

Q: SSO(Single Sign-On)との統合は必要ですか?

A: 推奨されます。SSO統合により、認証情報とアクセス制御の一元管理が可能となり、ユーザビリティとセキュリティが向上します。

Q: マルチテナント環境での権限分離は可能ですか?

A: 多くのCASBソリューションが組織階層とロールベースアクセス制御(RBAC)をサポート。部門別、地域別のポリシー管理が可能です。

関連技術

  • SASE - CASBを包含する包括的なネットワークセキュリティフレームワーク
  • Zero Trust - 「信頼しない、必ず検証する」セキュリティモデル
  • DLP - データ損失防止技術
  • IAM - アイデンティティ・アクセス管理
  • UEBA - ユーザー・エンティティ行動分析
  • CSPM - クラウドセキュリティ態勢管理
  • CWPP - クラウドワークロード保護プラットフォーム

CASBについてもっと詳しく

CASBに関するご質問や、システム導入のご相談など、お気軽にお問い合わせください。