Shift Left Security

アプリケーションセキュリティ | IT用語集

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Shift Left Securityとは

Shift Left Security(シフトレフトセキュリティ)とは、開発初期段階からセキュリティ対策を導入する手法です。従来のソフトウェア開発では、セキュリティテストや対策は開発サイクルの後半(右側)で行われていましたが、これを開発の早期段階(左側)にシフトすることで、セキュリティリスクの早期発見と修正コストの削減を実現します。

Shift Left Securityの背景と目的

従来のアプローチの問題点

  • 後手対応:本番直前でのセキュリティ脆弱性発見
  • 高い修正コスト:設計・実装完了後の変更は高コスト
  • リリース遅延:セキュリティ問題によるリリーススケジュール影響
  • 断片的対策:部分的なセキュリティ対策による漏れ

Shift Left Securityの利点

  • 早期発見:設計・開発段階での脆弱性検出
  • 修正コスト削減:開発初期での修正は低コスト
  • 品質向上:継続的なセキュリティ改善
  • 開発速度向上:セキュリティを組み込んだ開発プロセス

DevSecOpsとの関係

Shift Left SecurityはDevSecOpsの核となる概念です。開発(Development)、セキュリティ(Security)、運用(Operations)を統合し、セキュリティを開発プロセスの各段階に組み込みます。

DevSecOpsの主要原則

  1. Everyone's Responsibility:全チームメンバーのセキュリティ責任
  2. Automate Security:セキュリティプロセスの自動化
  3. Continuous Security:継続的なセキュリティ監視
  4. Fail Fast:早期の失敗による学習と改善

実装段階別のセキュリティ対策

1. 計画・設計段階

脅威モデリング

  • アーキテクチャレビュー:設計段階でのセキュリティ要件定義
  • リスク評価:潜在的脅威の特定と優先度付け
  • セキュリティ要件定義:機能要件と併せたセキュリティ要件
  • データフロー分析:データの流れとアクセス制御設計

セキュアコーディング標準

  • コーディングガイドライン:セキュリティを考慮した開発標準
  • フレームワーク選定:セキュリティ機能を持つフレームワーク使用
  • ライブラリ選定:信頼できるセキュリティライブラリの選択

2. 開発段階

静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST)

  • ソースコード解析:コーディング時点での脆弱性検出
  • IDE統合:開発環境での即座なフィードバック
  • 自動修正提案:検出された問題の修正案提示
  • 継続的インテグレーション:CI/CDパイプラインでの自動実行

ソフトウェア構成解析(SCA)

  • 依存関係解析:使用ライブラリの脆弱性チェック
  • ライセンス管理:オープンソースライブラリのライセンス確認
  • 自動更新:脆弱性修正版への自動アップデート

3. テスト段階

動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST)

  • 実行時テスト:動作中のアプリケーションに対するセキュリティテスト
  • API テスト:APIエンドポイントの脆弱性検証
  • 認証・認可テスト:アクセス制御の検証
  • インジェクション攻撃テスト:SQLインジェクション、XSSなどの検証

対話的アプリケーションセキュリティテスト(IAST)

  • リアルタイム解析:アプリケーション実行中の脆弱性検出
  • 偽陽性削減:実際の実行パスに基づく正確な検出
  • 詳細な脆弱性情報:攻撃パスと影響範囲の特定

4. デプロイ・運用段階

Infrastructure as Code(IaC)セキュリティ

  • 設定管理:インフラ設定の脆弱性スキャン
  • ポリシー適用:セキュリティポリシーの自動適用
  • コンプライアンス確認:規制要件への準拠確認

ランタイム保護

  • 異常検知:実行時の異常な動作の検出
  • 自動応答:脅威検出時の自動対応
  • 継続的監視:24/7 のセキュリティ監視

セキュリティテストの自動化

CI/CDパイプライン統合

  1. Pre-commit hooks:コミット前のセキュリティチェック
  2. Build stage security:ビルド時の脆弱性スキャン
  3. Testing stage security:自動セキュリティテスト実行
  4. Deployment gates:セキュリティ基準を満たさない場合のデプロイ阻止

セキュリティテストツールの統合

  • GitHub Advanced Security:GitHubネイティブのセキュリティ機能
  • SonarQube:コード品質とセキュリティの統合解析
  • Snyk:開発者向けセキュリティプラットフォーム
  • Checkmarx:企業向け包括的セキュリティテスト
  • Veracode:クラウドベースセキュリティテスト

セキュリティ文化の醸成

開発者教育

  • セキュリティトレーニング:定期的なセキュリティ教育
  • ハンズオンワークショップ:実践的なセキュリティスキル習得
  • セキュリティチャンピオン制度:チーム内セキュリティリーダーの育成
  • gamification:ゲーム要素を取り入れたセキュリティ学習

チーム連携

  • Cross-functional teams:開発・セキュリティ・運用の協働
  • セキュリティレビュー:定期的なセキュリティ設計レビュー
  • インシデント後の振り返り:セキュリティ問題からの学習

メトリクスと改善

セキュリティメトリクス

  • 脆弱性検出率:発見された脆弱性の数と重要度
  • 修正時間:脆弱性発見から修正までの時間
  • 偽陽性率:誤検出の割合
  • カバレッジ:セキュリティテストのカバレッジ率
  • コンプライアンス遵守率:規制要件への準拠度

継続的改善

  • 定期的な見直し:プロセスとツールの効果測定
  • フィードバックループ:開発者からの意見収集と改善
  • 新しい脅威への対応:最新セキュリティ動向への対応

課題と対策

実装上の課題

  • 開発速度の懸念:セキュリティチェックによる開発遅延
  • 偽陽性問題:誤検出による開発者の負担
  • ツール乱立:複数のセキュリティツール管理の複雑さ
  • スキル不足:開発者のセキュリティスキル不足

対策

  • 段階的導入:重要度の高い部分から順次導入
  • ツール最適化:偽陽性を減らすツール設定の調整
  • 統合プラットフォーム:統一されたセキュリティプラットフォーム使用
  • 継続的教育:定期的なセキュリティトレーニング実施

まとめ

Shift Left Securityは、現代のソフトウェア開発において不可欠なアプローチです。開発プロセス全体にセキュリティを組み込むことで、より安全で品質の高いソフトウェアを効率的に開発できます。成功の鍵は、適切なツールの選択、チーム文化の醸成、そして継続的な改善にあります。セキュリティを「後から追加するもの」ではなく、「最初から組み込むもの」として捉えることで、真にセキュアなソフトウェア開発が実現できます。

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