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Kubernetes Securityとは
Kubernetes Security(Kubernetesセキュリティ)とは、Kubernetesクラスターの包括的なセキュリティ設定と運用を行うセキュリティ分野です。コンテナオーケストレーションプラットフォームであるKubernetesにおいて、クラスター全体、ワークロード、ネットワーク、データの安全性を確保するための多層的なセキュリティ対策を指します。
Kubernetesは、複雑な分散システムであり、その分、攻撃面も広範囲にわたります。CNCF(Cloud Native Computing Foundation)の調査によると、2024年現在、90%以上の組織がKubernetesを本番環境で使用していますが、その半数以上がセキュリティ設定に課題を抱えています。
効果的なKubernetesセキュリティ戦略では、「ゼロトラスト」原則に基づき、クラスターの各コンポーネント間の通信を検証し、最小権限の原則を適用します。また、セキュリティは設計段階から組み込まれ、継続的な監視と改善を通じて維持される必要があります。
Kubernetesセキュリティの複雑さは、その柔軟性と機能の豊富さから生じています。そのため、組織のセキュリティ成熟度、コンプライアンス要件、運用体制に応じて、段階的にセキュリティ対策を実装することが重要です。
Kubernetesセキュリティの4つの主要領域
Kubernetesセキュリティは、複数の相互関連する領域にわたる包括的なアプローチが必要です。各領域は独立しているように見えますが、実際には密接に連携し、全体のセキュリティ態勢を構築します。
1. クラスターセキュリティ
クラスターセキュリティは、Kubernetesコントロールプレーンとワーカーノードの基盤セキュリティを担当します。これには、API Server、etcd、ノード間通信の保護が含まれます。
API Serverセキュリティ
Kubernetes API Serverは、クラスター全体の制御の中心点であり、最も重要な攻撃対象となります。そのため、多層的な防御策の実装が不可欠です。
- TLS暗号化:すべてのAPI通信の暗号化。証明書の適切な管理とローテーション
- 認証機能:ユーザーとServiceAccountの多要素認証(MFA)対応
- RBAC(Role-Based Access Control):最小権限の原則に基づく細密なアクセス制御
- Admission Controllers:OPA Gatekeeper、Pod Security Admission等のポリシー適用
# API Server セキュリティ設定例
apiVersion: v1
kind: Pod
metadata:
name: kube-apiserver
namespace: kube-system
spec:
containers:
- command:
- kube-apiserver
- --secure-port=6443
- --tls-cert-file=/etc/ssl/certs/apiserver.crt
- --tls-private-key-file=/etc/ssl/private/apiserver.key
- --client-ca-file=/etc/ssl/certs/ca.crt
- --authorization-mode=RBAC
- --enable-admission-plugins=NodeRestriction,PodSecurityPolicy
- --audit-log-path=/var/log/audit.log
- --audit-log-maxage=30
image: k8s.gcr.io/kube-apiserver:v1.28.0
etcdセキュリティ
- etcd暗号化:クラスター情報の保存時暗号化
- アクセス制限:etcdへの直接アクセス制限
- バックアップ暗号化:etcdバックアップの暗号化
ノードセキュリティ
- OS強化:ノードOSのセキュリティ設定
- Kubeletセキュリティ:Node AgentのTLS設定
- ランタイムセキュリティ:コンテナランタイムの保護
2. ワークロードセキュリティ
Pod Security Standards
Kubernetesの標準セキュリティポリシー:
- Privileged:制限なし(非推奨)
- Baseline:基本的なセキュリティ制限
- Restricted:厳格なセキュリティ制限
Security Context
- runAsNonRoot:非rootユーザーでの実行
- readOnlyRootFilesystem:読み取り専用ルートファイルシステム
- allowPrivilegeEscalation:特権昇格の制御
- capabilities:Linux capabilitiesの制御
- seccompProfile:システムコール制限
- seLinuxOptions:SELinuxラベル設定
3. ネットワークセキュリティ
Network Policies
- Ingress Rules:Pod への受信トラフィック制御
- Egress Rules:Pod からの送信トラフィック制御
- Namespace分離:論理的なネットワーク分離
- ラベルセレクター:細かなトラフィック制御
Service Mesh
- mTLS(mutual TLS):サービス間通信の相互認証
- 暗号化:Pod間通信の暗号化
- 認証・認可:サービスレベルの認証制御
- 監査ログ:通信の詳細ログ記録
4. データ保護
Secret管理
- Secret暗号化:etcd内のSecret暗号化
- 外部Secret管理:HashiCorp Vault、AWS Secrets Managerとの統合
- Secret ローテーション:定期的な秘密情報の更新
- 最小権限アクセス:必要最小限のSecret アクセス
ConfigMap・Volume セキュリティ
- 機密情報の分離:ConfigMapとSecretの適切な使い分け
- Volume権限:ファイルシステム権限の適切な設定
- 暗号化Volume:永続ボリュームの暗号化
RBAC(Role-Based Access Control)
RBACの構成要素
- Subject:User、Group、ServiceAccount
- Role/ClusterRole:権限の定義
- RoleBinding/ClusterRoleBinding:SubjectとRoleの関連付け
権限設計のベストプラクティス
- 最小権限の原則:必要最小限の権限のみ付与
- Namespace分離:アプリケーション・環境別の分離
- ServiceAccount分離:用途別のServiceAccount使用
- 定期的権限監査:不要な権限の定期的な見直し
Admission Controllers
組み込みAdmission Controllers
- PodSecurity:Pod Security Standardsの適用
- ResourceQuota:リソース使用量制限
- LimitRanger:リソース範囲制限
- NetworkPolicy:ネットワークポリシー適用
カスタムAdmission Controllers
- Validating Webhooks:リソース検証
- Mutating Webhooks:リソース変更
- Policy Engines:Open Policy Agent(OPA)Gatekeeper
監視と監査
Audit Logging
- API Server Audit:API アクセスの詳細ログ
- 監査ポリシー:ログレベルとスコープの設定
- ログ分析:異常なアクティビティの検出
ランタイム監視
- Falco:Kubernetesランタイムセキュリティ監視
- 異常検知:予期しない動作の検出
- インシデント対応:自動的な対応アクション
セキュリティツールとソリューション
オープンソースツール
- kube-bench:CIS Kubernetesベンチマーク検証
- kube-hunter:クラスター脆弱性スキャン
- Polaris:設定ベストプラクティス検証
- OPA Gatekeeper:ポリシー制御
商用ソリューション
- Aqua Security:包括的Kubernetesセキュリティ
- Twistlock(Prisma Cloud):クラウドネイティブセキュリティ
- Sysdig Secure:ランタイム保護と監視
- StackRox(Red Hat Advanced Cluster Security)
セキュリティベストプラクティス
設計段階
- Defense in Depth:多層防御の実装
- Least Privilege:最小権限の原則
- Secure by Default:デフォルトでセキュアな設定
- Fail Securely:障害時のセキュアな挙動
運用段階
- 定期的なセキュリティ監査:設定とポリシーの見直し
- 脆弱性管理:継続的な脆弱性スキャンと対応
- インシデント対応計画:セキュリティ侵害時の対応手順
- セキュリティ教育:チームメンバーのセキュリティ意識向上
脅威モデルと攻撃パターン
主要な脅威
脅威 | 攻撃手法 | 対策 |
---|---|---|
特権昇格 | privilegedコンテナ、hostPIDアクセス | Pod Security Standards、Security Context制限 |
データ漏洩 | Secret誤設定、etcd直接アクセス | etcd暗号化、External Secrets統合 |
横展開攻撃 | ネットワーク境界の欠如 | Network Policies、Service Mesh mTLS |
供給網攻撃 | 悪意のあるイメージ、Helm Chart | イメージ署名検証、Admission Controllers |
まとめ
Kubernetes Securityは、クラスター、ワークロード、ネットワーク、データの各層で包括的なセキュリティ対策を行う必要があります。適切なRBAC設定、Pod Security Standards、Network Policies、監視体制を組み合わせることで、セキュアなKubernetes環境を構築・運用できます。
効果的なKubernetesセキュリティ戦略:
- 多層防御:複数のセキュリティ層による包括的な保護
- 自動化:ポリシー適用とコンプライアンスチェックの自動化
- 継続的監視:リアルタイムでの脅威検知と対応
- 組織文化:セキュリティファーストの開発・運用文化の確立
セキュリティは継続的なプロセスであり、新しい脅威や機能に対応するため定期的な見直しと改善が重要です。適切なツール選択、組織プロセスの整備、継続的な教育を通じて、Kubernetesの利便性とセキュリティを両立できます。